ジョギング、ランニングなど走ることに関する本は多数書店に並んでいます。元ランナーや有名指導者の書かれた書物が多く、実際に経験してきたトレーニング方法、ランニングフォームなど、経験値からきた内容を初心者や一般市民ランナーにもわかりやすく、解説しています。
そんな中、福岡大学スポーツ科学部教授という肩書の方がランニングに関する本を書かれています。スロージョギングの提唱者である田中宏暁教授です。田中教授の本は、ランナーや指導者による本とは異なり、科学的な実験やデータに基づいた解説がされている点が特徴です。そのため、普通のランニング本と異なる部分もあります。
極端な例ですが「スロージョギング」の練習のときには準備運動は必要ないということです。従来運動前の準備運動はあたりまえと思っていたのですが、それが必要ないということです。また、足の着地点をフォアフットにすることが推奨されています。これらは、従来のランニング本ではあまり強調されていませんでした。
田中宏暁著書のランニングに関する本は数冊でていますが、独自の視点で大変興味深いです。初心者から上級者まで幅広く役立つ内容です。その中でも今回紹介するのは、一番のおすすめで「ランニングする前に読む本」です。「スロージョギング」について詳しく解説されています。そして「スロージョギング」は初心者でも簡単に始めることができる走法です。
スロージョギングのノウハウ本
「ランニングする前に読む本」、私がこの本を読んだのは、ランニングを始めてすでに20年以上経過している頃でした。私なりに当時、ランニングの走り方やトレーニング方法などはある程度勉強し、自分なりのノウハウのようなものがありました。しかし、この本を読んでランニングに対する常識が一変しました。
それくらい衝撃を受けたランニングのノウハウ本でした。これは面白いことに、実際にランニング経験者がこの本を読むと、私同様に衝撃を受けると思います。それはなぜかというと、ランニングにはある程度過去からの通説のような走り方とか練習方法などあります。しかし、この本の中では、その通説というものが当てはまらないのです。
その理由は科学的根拠に基づいたランニングノウハウだからです。本書の中でも述べていますが、今ではインターネットなど多様な説があり、どの方法を取り入れればいいのか悩んでしまいます。そのような情報の中、科学的根拠がないことも多いのが事実です。しかしこの本の内容は、科学的に考えても非常に合理的です。走ることに興味のある内容が詰まっています。ということが書かれています。
では初心者でランニングを始めたい人に、特にこの本がおすすめなのは、まず余分なランニング知識がないということです。そのためこの本の内容を素直に受け入れることができます。そしてスロージョギングという走法は、シンプルで簡単に走ることがきるからです。ではスロージョギングとはどういった走法なのか。
スロージョギングはニコニコペース フォアフット
スロージョギングのポイントはたった2つだけ。この2つのポイントさえ押さえて走れば誰でも始められます。その2つとは。
- 「にこにこペース」でゆっくり走ること
- 歩幅を狭くしてフォアフット(足の指の付け根)で着地すること
たったこの2つだけです。
「にこにこペース」とは、まずは走る速度ですが、おしゃべりができ、笑顔で走ることができる。人によって違いますが、とにかくゆっくりです。歩く速度と同等、もしくはそれより多少速く走る感じです。普通にイメージするランニングよりだいぶゆっくりです。
そんなにゆっくりで、ランニンング効果があるのか。実は速く走るより、ある程度ゆっくりのほうが効果があるのです。その点に関しては本書の中の科学的データーで実証しています。
そしてもう一つは、フォアフット着地です。足の指の付け根あたりで着地するということです。通常初心者ランナーの場合、足の着地点はかかと、ヒールストライクという走法が一般的でした。また日本人ランナーの場合、大半がヒールストライクで走っていると思います。私もヒールストライクで走っていました。
フォアフットはどちらかというとスピードランナーの走法かと思っていました。ところが著者の田中教授はポイントの一つの中に、フォアフットで走ることを入れています。なぜか。それは足や腰の故障回避のためだからだです。
ファオフットはヒールストライクに比べ走っているあいだ、脚に対する衝撃を軽減できるということです。これも本の中でデータとして掲載されています。以上の2つのポイントを意識して走るのがスロージョギングです。走り方の細かい点を上げればまだ多少ありますが、とてもシンプルだからこそ、スロージョギングは初心者でも始めやすいのです。
スロージョギングのランニング効果
スロージョギングの走り方はもちろんのこと、この本の中では様々なランニング効果についても解説されています。なかでもランニングとダイエットの関係についてはかなりのページをさいています。
まずは、マラソンランナーはみんなスリム。ランニングはエネルギー消費量の多い運動なので、トレーニングを積むと自然と軽くなるということです。ラクに痩せるにはスロージョギングは最適で、たとえばウォーキングと1時間あたりのエネルギー消費量を比較すると、スロージョギングは歩く場合の倍のエネルギーを消費してくれます。そのためウォーキングだけでは痩せにくいということです。
ダイエット以外にもランニング効果を数値、データに基づいて解説してくれていますので、説得力があり、納得できる内容です。そしてランニングに対して、走ったことのない人は苦しいとかツラいというイメージが先行するかと思いますが、それよりも走ることにたいして、敷居を低くしてくれ、誰もが気軽にできるスポーツであると印象付けてくれ、思わずスロージョギングで走りたくなってしまいます。
スロージョギング 実際走ってみました
私自身この本を読んですぐに、実際スロージョギングで走ってみました。じつはスロージョギングは、あるランニングのトレーニング方法と類似している走り方です。それはLSD(ロング・スロー・ディスタンス)です。LSDとは長い距離をゆっくり走るということです。その効果は長い距離を時間をかけてゆっくり走ることによって、心肺機能を高め持久力をつけるということです。したがって同等の効果はスロージョギングにあると思います。
ではLSDとのゆいつの違いは、足の着地フォアフットです。LSDは足の着地に関してはフリーです。
ということでスロージョギングでゆっくり走りました。膝もそれほど上げず、軽く上げそのまま下に落として足の着地点は指の付け根あたり。体は軽く前傾に倒しているので、ゆっくり前に進むという感じです。背筋は伸ばして、肩の力は抜いて、腕を軽くふる感じです。あと気をつける点は腰を落とさないということです。腰を落とすと猫背になってしまうので、落とさないように注意しましょう。
実際に走ると、ゆっくりなのでとにかく楽に走れます。ただ最初に一番気になるのは足の着地点です。足の指の付け根あたりで着地するということです。私自身、それまでかかと着地でしたので、フォアフットで着地をするということに最初はなれませんでした。しかし走っているうちに徐々に感覚が身についてきました。
とりあえずは30分ほど走りました。感想としてはとにかく息をきらすほどのスピードでもなくゆっくりですので、30分走り終えても多少の疲れ程度でした。あとは足の着地点がやはり初心者の場合、なかなか難しいかなと思います。
まずは足の着地点を意識して慣れるようにがんばりましょう。走り方が身についたら初心者の場合15分くらい走れるようになり、徐々に時間を伸ばしていきましょう。ランニングは継続、習慣化することが大切なので、最初から無理をせずゆっくり日にちをかけて走っていきましょう。
まとめ
「ランニングする前に読む本」はスロージョギングの走り方、効果について書かれています。それを中心にさらにランニングとはどういうスポーツなのかまで広げた内容になっています。本の冒頭で面白いことを書かれています。「ランニングと一口にいっても、レベルも違えば走る目的も人それぞれ。解消したい悩みにもさまざま。ですが、走ることへのそうした悩みのすべてを解消できる走り方があります」と書かれています。すべてを解消する走り方、それはまさに「スロージョギング」のことです。
ランニンング全般のことを語って、それらすべてを集約できる走り、それが「スロージョギング」ということです。
そしてもうひとつ感じることは、ランニングというスポーツは健康的でもあるし、さらに楽しい、面白いスポーツであるということです。なぜそれを感じるかというと、田中教授は講演会などの冒頭で必ずランニングのイメージについて、みなさんに聞くそうです。するとほとんど返ってくる印象が「キツイ、苦しそう」という回答だそうです。
テレビでマラソン、駅伝などトップアスリートを見ていると、苦しい表情、ゴール後、倒れ込む。そういう姿がよく目に入ります。それは全力で走りきった証かもしれません。しかしその印象がそのままランニングというスポーツにまで、浸透しているのかもしれません。
田中教授はそのイメージを払拭したかったのではないかと感じてしまいます。ニコニコペース=きつくない、楽しそう。まさにランニングは楽しく、面白いスポーツだということを、この本を読むと感じます。そして、さまざまな研究データを引用しランニング効果など書いていますので納得した内容になっています。
これからランニングを始めようという方には、ぜひ読んでほしい一冊です。またランニング経験者にも再度ランニングについて考えるという意味で、おすすめの一冊です。