走り書き RUNコラム

初心者おすすめLSDトレーニングはゆっくり走る

ソウル五輪で女子マラソンの日本代表、アジア大会では金メダルに輝いた浅井えり子選手。
彼女はLSD(ロング・スロー・ディスタンス)と呼ばれるトレーニング方法を行っていました。その時、彼女を指導していたのが佐々木功監督。LSDというトレーニング方法を日本に広めた名監督です。

佐々木監督は高校に入学して陸上を始めます。卒業後一時会社に勤務しましたが、21歳の時、東洋大学入学。1年から4年まで箱根駅伝出場。リッカー、東洋大学陸上部長距離監督を経て新日本電気(のちの日本電気ホームエレクトロニクス)陸上部監督となります。その後、浅井えり子さんを始め数多くのランナーを輩出しました。

佐々木監督の練習方法の中心となっていたのがLSDでした。ではLSDの練習による効果とは、どのようなものがあるのか、それを一冊にまとめた本が「ゆっくり走れば早くなる」です。

実践方法と理論がわかりやすく解説され、ランナー必読の一冊です。今回あらためて読みましたが、今でも十分通用する理論と内容です。マラソントレーニングの本としてはほんとうに良書です。そこで今回は佐々木監督の「ゆっくり走れば早くなる」を紹介。

LSDとは

Long Slow Distance(ロング・スロー・ディスタンス)の略で、「長い距離をゆっくり走る」という意味です。ゆっくり長い時間走ることによって、抹消毛細血管を開発し、心肺機能を高め、最大酸素摂取能力を高めます。これは長距離に向いた体作りに適したトレーニングなのです。ではなぜ佐々木監督はLSDを取り入れたトレーニングに注目したのか。

LSDトレーニングでカラダの器づくり

佐々木監督時代、当時のトレーニングというとスピード練習のインターバルが中心でした。毎日、より速く、より長くでした。はじめのうちは、スピードも持久力もついてくるでしょう。しかし限界に近づいてくると、その効果もうすれてきます。

いくらスピード練習をやってもスピードがあがらない。限界を超えることはできないのです。佐々木監督はそこに問題があると考えていたのです。それはカラダの資質、器が出来上がっていないということです。その状態でいくらスピード的要素をカラダに覚えさせようとしても、カラダの受け皿が満杯なので、いくら注ぎ込んでも溢れるだけなのです。

それではどうすればいいのか。それは抹消毛細血管を開発させるということです。血管自体はあるのですが、眠っている毛細血管があり、これを目覚めさせるということです。弱い刺激を長い時間与えることによって毛細血管に少しずづ血がおくりこまれ、生きた抹消毛細血管になっていくのです。

これにより大きな器、身体的開発が可能になるのです。長時間に渡って弱い刺激を与え続けること、それはランニングトレーニングにおいて、まさにLSDだったのです。

ゆっくり長時間走ることによって、抹消毛細血管を発達させ、心肺機能、最大酸素摂取量を高め、まさに長距離に向いたカラダづくりができるということなのです。佐々木監督はトレーニングのムダを少なくするために、練習はLSDに主眼が置かれていたのです。

LSDでランニングフォームのチェック

抹消毛細血管を増やす身体的資質の開発に有効なLSDですが、佐々木監督は正しいフォームを身につけるためにもLSDは有効だと話します。ある程度スピードのあるランニングをしていると、カラダのムダな動きに気づきません。特にラストスパートの走りになると、とにかくスピードを優先してフォームもくずれた走りになることも多いです。

その点LSDでスピードを意識せず、ゆっくり走っているとカラダの動きをはっきりと感じることができます。顔は前を向いているか、背筋が伸びているか、腰は落ちていないか、腕のフリはいいか、とにかく、LSDでゆっくり走っていると、カラダの各部分の動きを感じることができ、フォームチェックに最適です。

LSDで自己フォームチェック

私自身、LSDでフォームチェックは走っているとき必ず行っています。ずっと行うのではなく、だいたい15分に一回くらいです。チェックするポイントは顔が前を向いているか、背筋は伸びているか、肩に力が入ってないか、腰が落ちていないか、足の着地点は、などなど体の上から下へとチェックしています。

前半はいいのですが、30分過ぎ後半から意識していないとフォームが乱れてきます。まずは、顔が下を向き始めます。そして少し猫背気味になります。腰が少し落ち始めます。筋力不足もあると思いますが、疲れてくるとラクな姿勢になってしまいます。

これはやはり意識してつねに正しいフォームを戻すようにしないと、クセになってしまいますので、LSDによるフォームチェックは重要です。

意識するか、意識しないか、簡単にチェックできますので、ぜひLSDで自己フォームチェックを行ってみてください。

LSDを活用したトレーニングサイクル

佐々木監督=LSD。佐々木監督といえばLSDだけのイメージが強いかと思いますが、LSDはトレーニングのひとつで、決してLSDだけのトレーニングで十分というわけではなく、マラソンの練習方法で「休養」→「コンディションコントロール」→「オーバートレーニング」。このサイクルによって効率的なトレーニングができ、より効果を引き出せるという練習方法で、実は佐々木監督が重要視していることです。。

LSDによる身体開発の次に何をやるか。自分の体に大きな負荷をかけるインターバルなどオーバートレーニングになるでしょう。記録的にスピードを上げたり、持久力をつけるにはやはりオーバートレーニングが必要となります。ただし、大きな負荷をかけたりすることにより、細胞が破壊されます。破壊された細胞が回復するまでには48時間かかります。完全回復するには2日間かかるということです。

従って負荷をかける練習は3日に一度となります。そうなるとあとの2日間をどう過ごすか。そのサイクルが上記にあげた内容となります。3日間のトレーニングサイクルになります。

オーバートレーニングのあとは休養。ただし休養といってもカラダをまったく動かさないのではなく、佐々木監督いわく、積極的休養といい、弱い刺激を与える程度のLSDを行う。走るだけでなくサイクリング、水泳など、カラダに弱い刺激を与える運動なら、どんな運動でもOKというっことです。

翌日はコンデシションコントロールでオーバートレーニングの前段階で体調を意識的に引き上げる。このトレーニングサイクルによって身体的機能を向上させていくということです。

LSD3日間のトレーニングサイクルの考え方

佐々木監督の考える、三日間のサイクルトレーニングは素晴らしいと思います。効率的にトレーニングの成果を出すことができると思います。またスケジュールに流されるのではなく、体調を優先させるということは、故障など回避するためには重要なことだと思います。

オーバートレーニング後の休養日、1日で回復できない場合は翌日も休養、というように体調に合わせてすすめていくことは重要なことだと思います。そしてこの3日間によるトレーニングサイクルは中級者、上級者向けのトレーニング方法で、例えばマラソンでいえば、サブスリーを狙っているとか、上級者レベルの走りを目指すには最適のトレーニング方法かと思います。

しかし初心者、ビギナーランナーにおいては難しいトレーニング方法になるかと思います。3日間サイクルの中で、休養に関して佐々木監督は、積極的休養といって、LSDなど軽い運動でカラダをほぐし、疲労を回復させるといってますが、これはジョギング初心者にとっては難しい運動だと思います。

私でしたら、休養は、完全に休養で、特にカラダを動かす条件もなく、休むこと。正直、積極的休養の過ごし方は難しいかと思います。ちなみに私がこのトレーニングサイクルをやる場合、三日間では難しいので、4日~5日をかけて行います。オーバートレーニングのあと、2日間の休養日を。そのうち1日は特にカラダを動かさない完全休養。もう一日は軽いLSDで積極的休養。

そして2日間かけてコンディショントレーニング、そして翌日オーバートレーニング。

トレーニングサイクルにおいては3日間ということにはこだわらず、個人の資質、体調に合わせ、ある程度ゆとりをもった日程でこなすことが、ベターかと思います。

LSDトレーニングはカラダと対話

本の中で佐々木監督からよく出てくる言葉が「カラダと対話」するということです。これはとても重要なことで、その日の自分の体調をよく知るということです。

スケジュールに合わせるのではなく体調に合わせろということです。

たとえばスケジュールでは1時間のLSDとなっていても、15分ぐらいで調子が悪い場合は、調子に合わせて切り上げろということです。スケジュールに合わせて故障してしまうのが一番怖いからです。

私自身「カラダと対話」することは走る前、走行中、走り終わったあとと、トレーニングのときはつねに行っています。とくに面白いのは走る前から対話を始めた場合、今日は調子が良さそうだから、いつもより長い時間走ろうかと思っていると、いざ走ってみたら、カラダが動かなく、重く感じたり。気持ちとカラダの状態がアンバランスということもよくあります。

逆に調子が悪いと思っていたのが30分も走ると、気持ちよく走れたり、とにかくカラダの調子を自分自身でよく知ることが大切です。そのためにも「カラダと対話」することが大切です。

練習9割のLSDでマラソンサブフォー

佐々木監督は、LSDだけやっていてもフルマラソンは十分完走できるといってます。また練習メニューの9割はLSDでも、記録は必ず伸びるといってます。

実は私の場合も、ほぼLSDの練習だけでフルマラソンを完走し、サブフォー、サブ3.5を達成しました。マラソンに挑戦しようと思い、当初の練習方法といえば、ある程度のランニングスピードで、距離を10km、20kmと伸ばしていくという練習方法でした。サブフォーを目指していましたが、最初はなかなか4時間を切ることができませんでした。

しかし、マラソン5回目の挑戦で3時間40分と4時間切りの達成。その後3時間25分とサブ3.5も達成しました。

4時間切りが達成できたのはLSDのおかげです。私がLSDを最初に知ったのは浅井えり子さんの本「新・ゆっくり走れば速くなる」でした。その後佐々木監督の本をしり、こちらの本も拝読しました。最初はまったく意味がわかりませんでした。ゆっくりといってもどれくらいゆっくり走ればいいのか?その上ゆっくり走れば速くなる?すべて疑問だらけでした。

一週間もすると、徐々にゆっくり走にもなれて、違和感もなくなり継続して週4~5日のペースで続けていました。約一ヶ月続けていると変化が出始めました。最初は1時間ほどのLSDでしたが、走る時間も徐々に伸びていきました。距離も伸びていきました。

そして3ヶ月もすると、2時間ほどのLSDができるようになり、距離は20km近く走れるようになりました。LSDの面白いところは、とにかく継続していくと走る時間、走る距離が自然と伸びていくということです。当初はある程度のスピードで走っていた頃は、10km以上なかなか伸びませんでした。15km位でバテてしまい、長い距離走ることに抵抗がありました。

しかしLSDの場合、とくに苦しまず、自然と長い距離を走れるようになります。これには驚き、面白ささえ感じました。42.195kmという距離に対して、LSDを始めてから徐々に薄れてきました。もしマラソン完走を目指しているとしたら、私がおすすめする練習方法はまっ先にLSDです。正直LSDのトレーニングだけで十分フルマラソンを完走できる走力をつけることができます。

まずはゆっくりでいいので走ってみましょう。そして徐々に走る時間を伸ばしていきましょう。それがマラソン完走への近道です。

まとめ

ゆっくり走れば速くなる、最初は理解できませんでした。ゆっくり走ってもそれはムダな練習になるのではないかと思ったりもしました。

しかし、実際にLSDで練習するようになり、それを継続することにより、LSDの効果をカラダをもって感じることができるようになりました。

LSDはランニングやマラソンなどを走るための、基本的なカラダづくりの練習方法かと思います。

心肺機能を高め、末梢毛細血管の開発。これによって、カラダの器を大きくしてくれ、長い距離も抵抗なく走れるようにしてくれます。

長い距離、マラソンを完走したい。そう思ったらまずはカラダ作り。そのためにLSDを継続的に行っていきましょう。

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